オルゴール

 

人類もいない

ミジンコもまだいない

原初の宇宙の暗闇の中で

古い木箱を開けて

黄金のオルゴールが鳴り始めたら

つむぎ出される物語

まわる赤いチュチュの踊り子

オレンジ、紫、緑の宝石のように

天を駆けぬける音色の輝き

今ならおとぎ話も始まりそうな

運命の王子も竜との冒険も

ここから語ってみせてもいい

 

木箱の細工を指でなぞってみる

あなたへの私の気持ち

この箱の中

キラキラした気持ちの全部

 

でも毎晩空を見上げて祈っても

返ってくる宛先不明の手紙

白ウサギに託したのに

月の光をうっすら宿して

一筋の涙がこぼれていた

流れ星にも叶えられない夢はあって

オルゴールは鳴り続ける

立ちつくす私の耳元で

 

誰にも渡すことはない

踊り子の夢は

ふっと息を流して

全部この箱にしまって

おやすみなさいと

木箱をそっと閉じました

点—点

 

あなたは惑星

シーソーゲームみたいに

点と点が軌道を描いて

永遠に巡り合えない星のもとで

遠いあなたに郵便を出したい

 

私は惑星

あなたとの間にある深い宇宙の闇に

白い金平糖を幾千個もばらまいて

光の粉のような星屑とともに

この手鏡に集めよう

 

たった一度

広い宇宙のなかで

一筋のモールス信号がつたわって

指先と指先が触れ合ったら、

あなたの大きな瞳の海の中

紙吹雪みたいな泡にさらわれて

何もかもが溶けあった

そう思っていたのに

スノードームの夢

固く祈った約束は

ふと手を離すと宇宙の彼方に流れて

また気付けば永遠のような

長い朝が来ていた

 

あとはただ幻燈のように

あなたの面影が水面に揺れる

さらさらと流れる砂時計

頬をきらりとつたう涙も

砂塵と一緒に宇宙にちぎれて流れ

 

そしてまた私ひとり

三千光年の宇宙の彼方にいて

自分の細長い影を見つめている

星の光は遠くにかすんで

いつまでも来ないバスを待っている