オルゴール

 

人類もいない

ミジンコもまだいない

原初の宇宙の暗闇の中で

古い木箱を開けて

黄金のオルゴールが鳴り始めたら

つむぎ出される物語

まわる赤いチュチュの踊り子

オレンジ、紫、緑の宝石のように

天を駆けぬける音色の輝き

今ならおとぎ話も始まりそうな

運命の王子も竜との冒険も

ここから語ってみせてもいい

 

木箱の細工を指でなぞってみる

あなたへの私の気持ち

この箱の中

キラキラした気持ちの全部

 

でも毎晩空を見上げて祈っても

返ってくる宛先不明の手紙

白ウサギに託したのに

月の光をうっすら宿して

一筋の涙がこぼれていた

流れ星にも叶えられない夢はあって

オルゴールは鳴り続ける

立ちつくす私の耳元で

 

誰にも渡すことはない

踊り子の夢は

ふっと息を流して

全部この箱にしまって

おやすみなさいと

木箱をそっと閉じました